かっこいい匠たちvol.5
“心を動かす、ものづくり、人づくり”
注文建具全般、伝統的な日本建築の建具から現代の洋風建具まで、受注加工ならではの様々な形態・デザインの建具を加工・取付けを手掛けている。建具というと、障子、ふすま、戸などの仕切りであるが、依頼があれば要望に沿った家具もひとつひとつ丁寧に対応している。
“職人の技術は、お客さんと仲間が育てる”
この道60年の建具職人、白井さん。現在は息子さんと一緒に建具を作っている。「設計のノウハウがあり、こだわりのある工務店、設計士から仕事を受けています。この人の依頼だったら間違いがない、という信頼感は大切です。昔は、大工の棟梁が外部・内部の建具や材料をお客さんに提案してくれていました。良いものがほしいと言ってくれるお客さんも多く、お金のことよりも良いものを作ることが優先できる時代で、良いもの・一生ものの建具を作っていました。そうなると技術も備わってくる。自分の技術は、仲間とお客さんが育ててくれたと思っています。」
神社やお寺の特注品も手掛ける。「技術を学ぶのは楽しいものです。伝統的な建造物も仕事を通じて学びました。お寺や神社では、いい素材を使い、一般住宅よりもサイズも大きい。設計や工程、段取りも違うけれど、責任もあり、やりがいもあります。檀家さんを呼んで披露する機会や感謝状をもらったこともあります。お客さんに良かったと言ってもらえるときがうれしい瞬間です。」
新築住宅内覧会用に貸し出した囲炉裏風座卓。素材は無垢の楠の木。和室の展示用であったが、施主が非常に気に入ったので譲ったとのこと。自身の技術で良いものを造り、顧客に喜んでもらう。そのサイクルが高い技術を育て、良いものを作る楽しさと原動力になっている。
“1つの現場は1つの仕事。仲間と協力することで良い仕事する”
「今振り返ると、人に恵まれて仕事をしてきたと思います。昔は住みこみで働くことが当たり前で、家族同然にかわいがってもらいました。工場でも現場でも、自分のまわりは常にいい職人仲間がいました。1か所の現場で、違う業種で協力することも普通で、建具を3階まで運ぶのをペンキ屋さんが手伝ってくれたり、誰かが失敗をしても人を責めずにみんなで挽回する、失敗をした人は恩を感じて次は取り返そうとまた頑張る。1つの現場が1人の職人のようでした。仲間と仕事をすることで、気持ち良く仕事ができました。今まで関わった会社や職人さんたちとは、一度も喧嘩別れをしたことはありません。今も仕事でもプライベートでも楽しく過ごせる仲間です。仲間がいることで孤独にならかったとも思います。」インタビュー中も仕事仲間からの電話が入り、明るく楽しそうに話をされ、何度も何度も「ありがとね」と繰り返していた。
“変化する職人の技術、「熟練の技」から「工夫する技」へ”
「昔は難しい仕事、誰にもできないものを作るのが建具職人、熟練の技を持っているのが当たり前でした。現在の量産前提、単価・コスト重視の住宅業界では、熟練の技術はいらなくなっています。技術がいらないということは、職人が育たないということでもあり、簡単な障子くらいしかできない人もいます。特殊な仕口(組合せ)、飾り面、名前も知らない。作るのが楽しい、勉強するのが面白いと言ってくれる人が少なくなっているのは寂しく思います。ただ、これからの息子世代は、お客さんの要望を優先して、技術や素材、デザインを工夫して仕事をしてくれたら良いと思っています。技術は楽しいものです。1つのことをやり続ければ、生活はできる。意思を持って続けることは大切なことです。」
“一生ものの技術、一生ものの製品、一生現役”
「一生仕事をしたいと思っています。もし時間が許すようになれば、自分の技術を商品に入れ込んだ、額縁、テーブルに置く皿など、他にはない唯一無二のデザインで、使う人が喜んでもらえるものづくりをやってみたいと思っています。今は、知人からの依頼で、どうすれば面白くなるか、木の目の良さをどう表現するかきれいに見えるか、を考えながらオリジナルのテーブルを作っています。デザインを優先すると、素材の無駄も出たり、割高になったり、時間もかかってしまいますが。」と楽しそうに見せてくれました。
《スタッフの一言》
ご自身の技術と顧客や仲間への感謝を楽しそうに語る白井さん。人のために心を込めて、技術を駆使して作るからこそ楽しい、そういう仕事が人の心を動かすものづくりになるだと思いました。